先祖代々の記憶をデータベース化して“生きた記憶”に ― わたしの世界新記憶 ― Kioxia America, Inc. ビジネスデベロップメント エリック・リース

先祖代々の記憶を
データベース化して“生きた記憶”に ― わたしの世界新記憶 ― Kioxia America, Inc.
ビジネスデベロップメント
エリック・リース

「『記憶』で世界をおもしろくする」をミッションに掲げる、キオクシア。そんなキオクシアの社員は、「記憶」についてどのように考えているのか。1人ひとりがこれから目指していく「わたしの世界新記憶」をたどるこのインタビュー企画に今回登場するのは、Kioxia America, Inc.のメモリストレージ戦略部門をリードするエリック・リース。「先祖の系図・系譜を辿る」という趣味を持つリースは、「自分たちの“ストーリー”を後生に残す」という、新しいメモリ・ストレージ技術の可能性ついて考察を巡らしている。

エリック・リース

今でも残る15歳のエキサイティングな冒険の記憶

キオクシアは、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの国外にも複数の拠点を持つ。そんな海外関係会社の1つが「Kioxia America, Inc.」(以下、KAI)だ。

東芝セミコンダクター&ストレージ社などを経て、3年前にKAIへ入社したリース。同社でメモリストレージ戦略部門に在籍し、バイスプレジデントとして主にメモリやストレージビジネスの技術・製品戦略の開発、成長戦略提案に従事している。

「メモリやストレージが将来的にどのような使われ方をしていくのか。そしてそれらの市場において、キオクシアは今後どのような事業を展開していくべきか。簡単に言うと、それを考えるのが私の仕事です」

そんなリースが過去の印象深い記憶として想起するのは、15歳のある日に体験した思い出だという。

アメリカ・ユタ州のプロボ出身のリースは、ロッキー山脈に囲まれた環境で育った。中学生の頃、カナダのアルバータ州へ引っ越し、地元のボーイスカウト隊に所属していたリースは、世界中のボーイスカウト隊が集まるイベント「World Scout Jamboree」のマウンテンガイドを仲間とともに務めることとなった。そしてその準備のため、カナディアン・ロッキーで20マイル(約32km)の道をハイキングに挑戦したという。

「そのときの美しい景色はもちろん、背負っていた荷物の重さ、それからにおいなどを覚えていますね。しかしそれ以上に記憶に刻まれているのは、我々一行が山奥で道に迷ってしまったときのことです。マウンテンガイドの準備なのに迷子になってしまうという、ちょっと恥ずかしい思い出でもあるのですが(笑)」

当時はインターネットもGPSもなく、カナディアン・ロッキーで迷子になったリースら一行は、紙の地図を頼りに帰り道を必死になって探した。高速道路につながる電力線を見つけたことがヒントとなり、山を脱するルートを特定。しかしゴールまでのルートは「崖を下り、伐採された多くの木を越え、非常に急な斜面を登らなければならない」という、とても険しい道だったという。

「夜はテントを張りましたし、クマが出没する場所だったのでとても怖かった記憶もあります。しかしそうした恐怖心以上に、子どもながらに感じた“冒険心”のほうが強く自分のなかに印象に残っていますね」

忘れられない初来日の匂いと感覚

19歳のとき、初めて日本に渡航したときのことも、印象深い記憶として残っているとリースは振り返る。

「縁あって、今も日本とは仕事上で大きな関わりを持っています。だからこそ初来日のときの印象は私にとって、とても大切な記憶なんです」と語るリースにとって、日本の第一印象とは、いったいどういった記憶だったのだろうか。

「たしかそれは9月上旬のことで、少し暑さが残る季節でした。成田空港の滑走路が近づき、窓の外を見渡してみると、とても緑が多いことにまず驚きました。私が生まれ育った場所は砂漠地帯が多く、これほどの緑を見たことはありませんでしたから。飛行機の外に出てからは日本特有のじめじめした湿度を感じましたし、そのときに感じた磯の香りと醤油の香りが混ざったような独特のにおいも忘れられません」

先祖の日記から学べることがきっとある

リースは、キオクシアが掲げる「『記憶』で世界をおもしろくする」というミッションにも多大な関心を示している。

「私は趣味として、先祖の“genealogy”(系譜)を辿っています。先祖が生きた200〜300年前のストーリーを追いかけることは、私にとって非常に価値のある体験です。彼らのストーリーから、現代に生きる我々が学べることもきっとある、と考えているんです」

しかし、リースの「系譜を辿る活動」は多くの場合、国勢調査の記録や出生・結婚・死亡など主要なライフイベントの事実のみが記されたケースがほとんど。記録を知ることはできても、彼らの当時の“記憶”までを辿ることはできない。ゆえに記録からストーリーを再構築するのは、ほとんど不可能な作業と言えるだろう。しかしリースにとっての“ある日課”が、「先祖のストーリーを掘り起こす重要なヒントになり得る」とリースは言う。

「それは“日記”です。私は毎日、悔しかったことや恥ずかしかった出来事を日記として記録しています。ほとんどの方は日記を書く習慣を持っていないでしょうが、運よく見つけた日記を読めば、書いた方がどのような人生を歩んだのか、さらには当時の生活の様子を伺い知ることができます。だから系譜を調べる趣味において、先祖の“日記”を見つけられたときが、最も喜びを感じる瞬間です」

自分のストーリーを残すことで、愛する人たちの“生きた記憶”になる

15歳のときの冒険心、そして19歳のときの日本に対する第一印象。これらはいずれもリースの記憶に今もはっきりと焼き付いているという。しかし、当時は日記を書いておらず「あのときの正確な気持ちを残しておけばよかった」と話す。

「季節の行事、結婚式、お祝い、悲劇、出生、死……など、私たちの人生にはたびたび、重要で情熱的な出来事が訪れます。そのときの気持ちをきちんと記録することは、年齢を重ねるにつれて徐々に忘却され、死んでしまえば永遠に失われる“記憶”を残すことにもつながるでしょう」

さらに「キオクシアが開発する新たなテクノロジーによって、そうした記憶を残していきたい」ともリースは話す。

「すでにソーシャルメディアなどを通じて、私たちの断片的なストーリーはメモリ技術と関係しています。しかし残念ながら現時点では、情報を永続的でアクセスしやすい状態に“記録・整理・共有・編集”する方法を築けてはいません。たとえば、簡単に利用できる自動化技術によって、私たちの日頃のライフイベントを記録・整理・共有・編集できるようになったとします。そうすれば、後生の人たちが私たちのストーリーを知り、彼らがそこから何かを学び取ることがあるかもしれません」

「メモリやソフトウェアの技術が進歩すれば、こんなサービスが提供できるようになると思います。そんな世界が実現すれば、私たちは、私たちの愛する人たちの“生きた記憶”にもなれるのではないでしょうか」

Kioxia America, Inc. ビジネスデベロップメント エリック・リース

2013年の(株)東芝入社を経て、2016年にToshiba Memory America(現・Kioxia America)へ転籍。メモリストレージ戦略部門に在籍し、シニアバイスプレジデントとして主にメモリやストレージビジネスの技術・製品戦略の開発、成長戦略提案に従事。

掲載している内容とプロフィールは取材当時のものです(2019年10月)